昨年、こんな記事を書きました。

高齢者の交通事故は増えたのか?メディアの世論コントロールに騙されるな


まとめると、
・若年層が起こす事故が減っているのに対して、高齢者が起こす事故は増えている。特に80代以降は激増。
・それは免許の保有者が高齢化し、人数が増えているからであって、特に高齢者が事故を起こしやすいわけでも、より起こしやすくなっているわけではない。
・一番事故を起こしやすいのは10代、次いで20代、そのあとに高齢者
ということです。

この話題に関して、いくつか面白い記事があったので、ご紹介します。

高齢者による交通事故 免許を返納すれば済む問題なのか(日本科学未来館 科学コミュニケーター 伊藤健太郎(いとう・けんたろう) )

 この記事の前半はほぼ私の書いた記事と同じ内容。高齢者だからと言って事故を起こしやすいわけではないというもの。そのあとはどうやって車に代わる高齢者の足を確保するかという方法と高齢者の事故で多いペダルのふみ間違いをどうやって技術的に解決することが可能かというお話です。

高齢者による交通事故 免許を返納すれば済む問題なのか → 済みます!(永江 一石) 

 上記伊藤さんの記事がミスリードだとする記事です。論点は2つ。一つ目は

ほぼ二輪の10代とほかの世代の比較は意味ない

その根拠として、

「原付免許以上」だから二輪や原付が大半なのは明白で(普通免許取れるのは18歳以上だもんな)、そもそも二輪は普通乗用車と比べて事故率が格段に高い。平成26年の警察庁のデータですと

()は事故の全体に占める割合

自動車乗用中の事故合計 468139(65%) 致死率0.29

自動二輪 36411 致死率1.21(5%)

原付   43037 致死率0.59(6%)

と、自動二輪の事故の致死率は自動車の4.2倍、原付も2倍。事故所有台数で割って事故を起こしやすい比率を計算しようと思ったが、車とバイクを両方持っていたり、バイクを複数持っているケースが多いので正確には出せないが、いろんなの見て回ると二輪の事故率は自動車の約2倍、原付は約1.4倍としているケースが多かった。体感的にもこんなものでしょう。

と書かれています。普通免許が18歳以上だから、「二輪や原付が大半なのは明白で」というのはちょっと乱暴かと思いますが(18才になって免許を取って早々に事故を起こすなんて珍しくなさそうです。)、間違っているというデータもないので、ここは保留。

もう一点は

誰がどう見てもヤバイ事故を起こしやすいのは75歳以上の男性

その理由がこのグラフ。

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右はこれまでも使われているグラフで、事故を起こす確率については、高齢者はそれほど高くないということを示していますが、左側の死亡事故を見ると、70歳以上が死亡事故を起こす確率は非常に高いです。
 
ここまではその通りなのですが、 次が怪しい。

75歳以上は20代の2倍、30代の3倍以上、死亡事故を起こしやすいのです。別にこすったりぶつけたり程度ならまだいいのですが、「死亡事故を起こす率がやたら高い」のが問題なわけです。とっさの時の判断が鈍っているから重大事故になっているわけね。

事故を起こす確率はそれほど変わらないのに、死亡事故が多い理由としては今一つ納得できません。判断が鈍っているのなら事故そのものももっと増えるのでは?と思うわけです。ここで、もうひとつのグラフ(これも以前永江さんが使ったもの)を見てみましょう。
 
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 これは死亡事故での被害者の年齢別割合を見たものですが、死亡事故の被害者は高齢者が圧倒的に多いことがわかります。このグラフだけからはわかりませんが、

この要因を、高齢人口の増加だけに求めることはできない。人口当たりでみた場合でも、65歳以上の高齢者が、3年以降、最も死者数の多い年齢層となっている。(警視庁のデータより)
 つまり、高齢者は事故に遭う確率が高い or 事故に遭うと死亡する確率が高い、もしくはその両方なのです。これはわかりやすいですよね。若者ならかすり傷で済む事故でも高齢者は骨折してしまうというのはよく聞く話です。また、高齢者の事故と若者の事故で被害者の年齢層が違うというのは考えづらいですから、「高齢者は事故に遭うと死亡する確率が高い」ということがわかります。

 この2つを合わせると違う結論が見えています。

 高齢者の運転手が事故を起こす確率はほかの年代と変わらないが、いったん事故を起こすと「自分が死んでしまう可能が高く」、結果として死亡事故を起こす確率が非常に高くなっている

のです。高齢者は死亡事故を起こす確率が高いと聞くと罪もないお子さんが事故の被害者になり、殺されてしまう事故がイメージされるでしょうが(こういうニュース多いですしね)、それとはずいぶん異なるイメージを持たれるのではないでしょうか。

 ただ、このあたりもしっかりとした直接的なデータがあるわけではありません。警視庁さんの統計データの元データを入手してみたいものです。

 最後はこの記事

「高齢だから運転させない」は妥当か(鈴木敬子 / 毎日新聞 医療プレミア編集部 

この記事の前半は認知症の疑いがある人が運転しているケースが非常に多くあるということなのですが、ユニークなのは

運転をやめると要介護のリスクが高まる(国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)予防老年学研究部部長の島田裕之さん)
ということ。
 運転をやめることが健康にもたらす悪影響は、島田さんらが研究で明らかにしている。65歳以上の高齢者3556人(平均年齢71.5歳)を、▽運転を続けている人(運転継続群)▽もともと運転をしていない人(非運転群)▽運転をやめた人(運転中止群)−−の3群に分け、2年間にわたり要介護の状態を追跡調査した。その結果、運転中止群は運転継続群より、要介護になるリスクが7.8倍高かったという。また別の研究では、運転をしている人は、もともと運転していない、または運転をやめた人と比べて、認知症の発症リスクが半減することが分かった。
だそうです。これも納得しやすいですね。認知症が進んでいる人に運転をさせないのは当然としても、「高齢者は一律免許を取り上げよう」というような議論はかえって認知症のリスクを高くしかねないものだということがわかります。私は先の記事で
それによりQOLが下がる、生きがいがなくなる、通院やいざというときの病院搬送ができなくなるといった要因でなくなる人が増える可能性すらありえます。
と書きましたが、その一部が裏付けられたと思います。センセーショナルなニュースではなく、データに基づいた冷静な議論により、社会全体が良くなっていってほしいなと思います。

そういえば、昨年後半は毎日のようにやっていた高齢者の交通事故のニュース、最近はめっきり減った感じがします。時間ができたらこれも調べてみたいものです。